広くて深い海はどこまで続いているのだろう。
人間がもぐることができるのはほんのわずかな深さ。
太陽の光が届かない暗い海の底には、どんな生き物がいるのかな?
海底には何がねむっているのだろう?
そんなことを考えたことがある人も、きっといるはず。
人は昔から海とともに生きてきた。
でも、そんな海について、まだ分かっていないことがたくさんあるんだ。
もしかしたら、未来のくらしに役立つ資源があるかもしれない一方で、
海のごみも大きな問題になっている。
そこで活躍しているのが深海探査船や水中ロボット、そしてカガクの力。
さあ、目には見えない海の奥にねむっているひみつをたずねてみよう。
読み終わったあと、海を見つめるまなざしがちょっとだけ変わっているかもしれないよ。
JAMSTEC
(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)
深海のひみつを調べる探査船や探査機


みらいⅡの完成イメージ図
地球の表面の70%は、海でおおわれています。その海には、見つかっていない場所、分かっていないことが、まだまだたくさんあります。
JAMSTECでは1971年から、そんな海のふしぎを調べ、研究しています。温暖化の状況、海の生物や資源、地震のしくみ、火山活動――。調査・研究して分かったことを、私たちのくらしや地球環境の維持に役立てることを目指しています。
海の調査・研究には、船や探査機が使われます。そのなかには、海底下7,000mまで掘る能力を持つ地球深部探査船「ちきゅう」や、水深8,000mまでもぐることのできる深海巡航探査機「うらしま8000」などがあります。
2026年秋には、北極域研究船「みらいⅡ」が完成予定。北極圏(温暖化の進行ペースが速い場所)での調査・研究が予定されています。
海底にはどんな資源がねむっているの?
陸には金、銅、石炭など、さまざまな資源があります。実は、海底にも「海底鉱物資源」と呼ばれる資源がねむっています。
例えば、海底からふき出す熱い水に溶けこんでいた金属(鉛や亜鉛、銅、金など)が、冷えて固まってたまった「海底熱水鉱床」。鉄やマンガン、コバルトが海山の斜面をおおうような形でたまった「コバルトリッチクラスト」。直径2~15cmほどの鉄やマンガンなどのかたまり「マンガンノジュール」。ネオジムなどのレアアースをふくむ「レアアース泥」などです。

- 海底熱水鉱床

- コバルトリッチクラスト

- マンガンノジュール

- レアアース泥
金属資源は何に使われているの?
海底鉱物資源にふくまれる金属は、私たちのくらしに役立つものばかりです。
例えば、コバルトはスマートフォンなどに使われるリチウムイオン電池に、マンガンは鉄を作る時などに使われています。特に、レアアースは電気自動車や風力発電機、LED照明など、環境にやさしい技術に欠かせない材料で、「産業のビタミン」とも呼ばれています。
これらの資源は、環境にやさしいエネルギー技術や、未来のくらしを支えるさまざまな製品に使われていて、これからますます必要になると考えられています。
どうやって見つけるの?
深い海の底にある資源を見つけるのは、とても難しいことです。海は暗く、深くなるほど水の重さによる力(水圧)が強くかかるため、人が簡単に行ける場所ではありません。さらに、海底鉱物資源がどのようにできたのか、まだよく分かっていないこともたくさんあります。
そこで活躍しているのが水中ロボットです。JAMSTECでは海底のようすをくわしく調べるため、さまざまな探査機を使った研究を進めています。2018年には、船からケーブルでつながっていない自律型水中ロボット(AUV)を2機同時に使った調査に世界で初めて成功しました。AUV「じんべい」で電気を流し、AUV「ゆめいるか」で海底の状態を調べることで、地下にある海底鉱物資源のようすを、これまでより短い時間で正確に観測できるようになりました。
こうした研究や技術開発によって、日本の海にねむる資源のひみつが、少しずつ明らかになってきています。

- AUV「じんべい」

- AUV「ゆめいるか」
ねむっているのは資源だけじゃない!?
海底にあるのは資源だけではありません。食品容器やペットボトルにレジ袋、フリース素材の服を洗濯した時に出るプラスチック繊維、目に見えないほど小さな「マイクロプラスチック」など、たくさんのプラスチックのごみも流れつきます。その量は1年間で数百万トンにもなり、少なくとも約3,000万トンのプラスチックが分解されない「消えないごみ」として、海の中にたまり続けていると考えられています。こうしたごみは、海の生き物や生態系に悪い影響をあたえることも。例えば、魚がプラスチックごみを食べ、その魚が私たちの食卓に並ぶ可能性もあるのです。
日本周辺の深海の底には、海流によって大量のプラスチックごみが集まりやすい「たまり場」があります。その多くは使い捨てのプラスチック製品です。中には、1980年代に作られた食品の包装が、ほとんどそのままの状態で残っていることもあります。深海は太陽の光が届かず、水温も低いため、プラスチックが分解されにくいのです。
JAMSTECではこうした問題を解決するために、プラスチックごみの実態を調べています。私たちの生活を守るためにも、プラスチックごみの問題についてできることは何かを考えてみましょう。

- 海底のプラスチックごみを拾っているようす

クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス
(Japan Clean Ocean Material Alliance 略称:CLOMA)
CLOMAってどんなことをしているの?

- CLOMA事務局長
柳田康一さん
どんな実験をしているの?
例えば、マヨネーズを作っている「キユーピー」と「味の素」は、総合スーパー「イトーヨーカドー」の3店舗で、マヨネーズボトルの回収実験を行っています。回収された容器のよごれ具合を調べながら、「どうすれば、より多くの人がリサイクルに参加できるのか」「どうすれば回収したボトルを新しく生まれ変わらせられるのか」を考え、新しいしくみづくりに取り組んでいます。
また、洗剤メーカーの「ライオン」とインキメーカーの「東洋インキ」は、使い終わった洗剤のつめかえパックから印刷部分などをはがし、プラスチックの層をもう一度パックとして使えるようにする技術を開発しました。今はこの技術を世の中に広めようとしています。
子どもたちに向けて、どんな活動をしているの?
「未来デザインプログラム」という中学生を対象にした出前授業を行い、2025年度は9校の生徒、約1,500人が参加しました。授業では、例えば、食品メーカーの方が「うすいプラスチックの容器はごみを減らすことに役立つんだよ」と紹介したり、ごみを処理する会社の人がリサイクルのしくみを説明したりします。ペットボトルから糸が作れることを知ると、みんなおどろきます。
出前授業の後には、生徒たちが未来について考えた映像作品や展示物を作りました。そして、「大阪・関西万博」の会場で、約380作品の中から選ばれた10作品を中学生たちが発表しました。CLOMAでは、こうした実験や教育活動を通じて、海洋プラスチックごみを減らすしくみを社会全体に広げていくことを目指しています。

- 「キユーピー」と「味の素」が実施するマヨネーズボトルの回収実験にて設置された回収ボックス

- 大阪・関西万博の会場で中学生を対象とした「CLOMA未来デザインプログラム」の成果発表会を開催

- プラスチックごみを減らす取り組みを知ってもらうため、さまざまな展示会に参加している
「きみラボ」を読むみなさんへ
未来の主役は、今この記事を読んでいるみなさんです。海の環境が良くなる技術や世の中が明るくなるしくみを、みなさんの自由なアイデアでどんどん作っていってほしいと思います。
©CLOMA

ブルーオーシャン・イニシアチブ
Blue Ocean Initiative 略称:BOI
BOIってどんな団体なの?

- BOI代表理事・サラヤ取締役
代島裕世さん
どんなプロジェクトがあるの?
例えば、海水温の上昇などによって海藻が減ってしまう「磯焼け」の対策に取り組んでいる「住友大阪セメント」と、海洋プラスチックごみになりにくいパッケージを開発している「レンゴー」は、BOIでの出会いをきっかけに、海をよごさずに海藻を育て続ける方法を一緒に研究するようになりました。また、自動で物を運ぶシステムを作っている「ダイフク」と、ごみの回収や調査を行っている「ピリカ」は、川のごみを回収するロボットを開発しました。
どんな未来を目指しているの?
2025年に行われた「大阪・関西万博」に参加しました。「ブルーオーシャン・ドーム」で、海の資源を守りながら使っていくことや、海の生き物たちがくらし続けられる環境について発表しました。
このパビリオンの3つのドームは竹、カーボンファイバー、紙の筒など、環境に配慮した材料で作られていました。解体しやすい構造になっていて、今後はタイの観光施設などで再利用される予定です。
海藻がたくさん生えている場所(藻場)をどうやって復活させるか。海洋プラスチックごみをどう回収して、もう一度使えるようにするか……持続可能な漁業とは。海には解決しなければならない問題が山積みです。BOIでは、たくさんのプロジェクトを通じて良い答えが見つかったら、同じ問題に困っている地域にも広げていきたいと考えています。そして、2030年までにSDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」の達成を目指しています。

- BOIに参加する企業などの人たちが長崎県の対馬を訪問。海岸に流れ着くごみなど、海の環境問題について現地で学んだ ©BOI

- 大阪・関西万博でBOIの活動を発表した「ブルーオーシャン・ドーム」 ©ZERI JAPAN

- 藻場再生プロジェクトにて大阪湾の岸壁に設置した「藻場増殖プレート」で育ったワカメ ©大阪府
「きみラボ」を読むみなさんへ
子どもたちが自然を体験できる場づくり、例えば、廃校などを活用してサマーキャンプを行い、泳いだり釣りをしたりしながら、海の現状について学べる機会を作りたいですね。そして、海の生き物について、まずは知ってほしいと思っています。回転寿司に行ったら、何という名前の魚なのか、どこでとれる魚なのか、ということを考えるだけでも海への興味につながります。BOIの取り組みを紹介した『あおいほしのあおいうみ』(紀伊國屋書店)も、海のことを楽しく学べる本です。ぜひ読んでみてくださいね!


- 『あおいほしのあおいうみ』
(Think the Earth 編著、ZERI JAPAN 企画、紀伊國屋書店)
海の底にねむる未来の資源「レアアース泥」
Q1. レアアースってなに?
レアアースとは、31種類ある希少金属(レアメタル)のうち、ランタノイド15元素にイットリウムとスカンジウムを加えた17元素をひとまとめにした呼び方です。(元素周期表を見てみよう!)
これらは半導体や電気自動車、風力発電、LED照明といった「最先端技術」や「クリーンエネルギー技術」を使った製品には欠かせない元素です。電気を無駄なく使ったり、化石燃料の使用を減らしたりすることで、温室効果ガスの排出を減らそうとする社会の流れの中で、ますます必要とされています。

- 東京大学大学院工学系研究科
エネルギー・資源フロンティアセンター
中村 謙太郎 教授
Q2. 日本でレアアースが採れるメリットは?
現在、日本がレアアースを手に入れるには海外からの輸入が欠かせません。しかし、2012年に東京大学の研究チームが日本最東端の島である南鳥島の近くの海で、レアアースを多くふくんだ泥「レアアース泥」が存在していることを発見しました。将来、この資源を利用できるようになれば、外国にたよることなく、日本の中でレアアースを手に入れられるようになるかもしれません。そうなれば、電気自動車や電子機器づくりなどを、より安定して続けられると期待されています。

- 南鳥島で採られたレアアース泥の展示
Q3. 中村先生が海底資源に興味を持ったきっかけは?
最初から海底資源に興味を持っていたわけではありません。子どものころは昔の出来事を想像するのが好きで、人間のいない恐竜の時代や生命が誕生する前の地球、さらには宇宙の始まりなど、今とはまったくちがう世界に魅せられていました。
その興味は大学に入ってからも続き、何十億年も前の地球の環境を調べる研究をしていました。その中で、昔の海がどんな環境だったのかを知るための手がかりとして、海でできた資源について調べたことが、今の海底資源の研究につながっています。

- 南鳥島のレアアース泥から取り出したレアアース
Q4. 研究していて、楽しいことは?
新たななぞを見つけることと、そのなぞを考えて解き明かすことです。例えば、レアアース泥の研究では、ある時代の泥が、まるでけずり取られたように消えていることを見つけました。しかし、太平洋のど真ん中の深海の海底は、波や速い海流があるわけでもなく、泥がけずられるようなことは本来ありえないはずです。「過去の海底で一体何が起きたのか?」と想像をめぐらせるのは、とても楽しい時間です。このなぞについても、ぜひとも解き明かしたいと思っています。

- 東京大学内の鉱物資源フロンティアミュージアム―MINERAFRONT―
Q5. レアアース泥以外で注目の資源は?
「マンガンノジュール」という海底資源にも注目しています。これはサメの歯や岩石のかけらなどを核にして、海水中のマンガン成分が数百万年かけて少しずつくっつくことでできた、直径数cmから十数cmのかたまりです。この中には、電気自動車やスマートフォンのリチウムイオン電池などに欠かせない「コバルト」や「ニッケル」が豊富にふくまれています。
マンガンノジュールは、レアアース泥と同じ南鳥島の近くの海底の広い範囲に、びっしりとしきつめられたように分布しています。この資源についても、レアアース泥とともに「国産資源」として活用できるようにしていきたいと考えています。
©東大加藤中村安川研

















