
- 北川 進 (京都大学特別教授)
MOFは金属と有機物でできた化合物で、一言でいうと「無数の小さな穴が空いた新しい素材」のこと。ジャングルジムのような形で、たくさんある小さい穴に、自由自在に気体のつぶを出し入れすることができます。金属や有機物の種類を変えれば、取り込める気体の種類も変えられるため、さまざまな用途で活用することができます。すでに、野菜や果物がくさらないようにするMOF、たくさんのガスをつめこめるMOF入りのボンベなどが開発されています。
現在は、空気中から温室効果ガスを回収する技術開発も進んでいます。今後は、砂漠の空気から水を取り出したり、原子力発電所の冷却水の処理ができるようになったりするかもしれません。
このように、MOFは工夫次第で地球上のあらゆる問題を解決できる可能性を秘めています。
Q1. ノーベル賞を受賞されたお気持ちを聞かせてください。
昨年12月にスウェーデンで行われた授賞式で国王から賞状やメダルをいただいた時に、今までやってきた研究が世界に認められたんだなという実感がわきました。それと同時に、この研究を社会に役立てていくためにもっと努力を続けていく必要があるなという気持ちもあります。
Q2. 科学や化学に興味を持ったきっかけを教えてください。
いわゆるサイエンスの科学に興味を持ったのは小学生の時です。エジソンやアインシュタイン、野口英世など、あらゆる偉人の伝記を読みました。「本当にすごいな」と感じ、もっと科学を知りたいと思うようになりました。遠足の日に雨が降らないよう、てるてる坊主を作るのではなくて、科学で天気をどうにかコントロールできないかと考えていました。
エタノールとメタノールは、炭素の数がひとつちがうだけの化学物質です。エタノールはお酒と似ていて、たくさん飲まない限りは大丈夫ですが、メタノールは飲むと神経にダメージをあたえます。こうしたちがいは数学とか理論を勉強しても分からず、化学者にしか分かりません。
大学では(ノーベル化学賞を日本人で初めて受賞した)福井謙一先生の量子化学という分野を学び、「やっぱり化学はすごいな」と改めて強く感じました。
Q3. 研究の中ではたくさんのご苦労があったと思います。どのように乗り越えましたか。
アメリカで研究発表をした時に、たくさんの人から研究を否定する意見が出ました。でも、共同研究の仲間も長い経験がありましたので絶対に研究データにおかしいところはないと自信がありました。この時は、落ち込むというよりも、逆にたくさんの反対意見を受けるということは、まったく新しい発見につながるのではないかという直感がありました。
Q4. 北川先生のこれからの夢は何ですか。
MOFを使って空気を資源として自由に使える世の中に向けて、ちょっとでも貢献していきたい。今まで絶対にできないと言われている研究にもチャレンジしていくのが私の研究者魂です。
Q5. 将来、研究者になりたい小学生にメッセージをお願いします。
若い人には、これがおもしろいと興味を持ったことに突き進んでほしいと思います。ずっと興味を持ち続けていくことで、何かの形で成功できるはずです。そうした経験を積み重ねていくことで、これまで興味が無かったことにも興味を持つようになり、だんだんと世の中が広がっていくと思います。
まずは興味のあるところから、心を閉ざさず、頭を閉ざさず、取り組んでほしいです。親御さんもそうした気持ちを大切にしてあげてほしいです。

福井 謙一
日本人で初めてのノーベル化学賞受賞者。有機化学反応に関与するのはフロンティア(最前線)にいる電子だということを解き明かし、有機化学反応の起きるしくみを整理しました。この理論は、以前はつながりが少ないと思われていた量子力学と有機化学の分野について、福井氏が学んでいたことから生まれました。今では、半導体に使われるシリコンの加工技術、医薬品の開発に活用されています。

白川 英樹
電気を通すプラスチック「誘導性ポリマー」を発見しました。発見のきっかけは、実験中に1,000倍もの量の触媒(ものを別の性質のものに変える物質のこと)を加えてしまったこと。失敗でできた物質について、アメリカのアラン・ヒーガー氏、アラン・マクダイアミッド氏と研究し、3人一緒に受賞しました。今では、携帯電話の電池やタッチパネル、太陽電池などに活用されています。

野依 良治
化合物には、左手と右手のように、鏡に映したような化合物「キラル分子」があります。この右手型と左手型では、薬効や毒性が異なることがあるため、医療の現場などで問題が起きていました。
19世紀のフランスの化学者・パスツールは、右手型と左手型の作り分けは不可能だと言っていたそうですが、野依氏は作り分けに成功。有用な物質だけをたくさん作ることを可能にしました。パーキンソン病治療薬などの医薬品の開発、メントールの量産化などに活用されています。

田中 耕一
たんぱく質の重さを量るための分析方法を発見しました。たんぱく質の重さを量るには、たんぱく質をイオン化(電荷をつけること)する必要がありますが、たんぱく質を分解せずにイオン化するのは困難です。実験中、偶然にもコバルトにグリセリンを垂らしてしまい、これを使ってみたところ、イオン化し分析できることを発見しました。今では、病気の診断、創薬の研究などに役立っています。

下村 脩
クラゲの一種、オワンクラゲから緑色に光るたんぱく質「GFP」を見つけ、分けることに成功しました。特定のたんぱく分子にGFPをつけると光るので、例えば、GFPをがん細胞に組み込むことで、がん細胞の動き方が分かるようになりました。研究のために採ったクラゲは85万匹以上にもなったそうです。GFPは光る目印として、病気を解明するための観察、新しい薬の開発などに役立っています。

根岸 英一
鈴木 章
2つの有機化合物の炭素をつなぎ、新しい有機化合物を作る。そのための1つの方法が、クロスカップリング反応です。アメリカのリチャード・ヘック氏がパラジウムを使って「ヘック反応」を、根岸氏は亜鉛化合物などを使い「根岸カップリング」を、鈴木氏はホウ素などを使い「鈴木カップリング」を開発し、3人で受賞しました。テレビの液晶画面やプラスチック製品、高血圧の治療薬をはじめとする薬の開発に役立っています。

吉野 彰
二次電池(くり返し使える電池)に使われる電解水の溶媒(ものを溶かして、混ざりやすくする液体のこと)は水を用いることが一般的でした。吉野氏は、水ではなく有機溶媒を使ったり正極をコバルト酸リチウムにしたりして、1980年代にリチウムイオン電池の原形を作りました。ノートパソコンやスマートフォン、自動車など身近な製品に欠かせないリチウムイオン電池。くり返し充電できるため、環境・エネルギー問題の解決にも役立っています。

(京都大学特別教授)























